SARVHに勝ち目はあるか

本田雅一氏がSARVHと文化庁を痛烈に批判しておられる。

【本田雅一のAVTrends】施行通知に矛盾した“文化庁著作権課見解”から見える 私的録画補償金問題に燻る火種 - AV Watch


ただ、私は、SARVHの主張が認められる可能性が、五分以上はあると考える。何となれば、著作権法上では、録音録画保証金対象機種は、政令で決定されることになっているからだ。

2 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html#2_3e


そして、著作権法施行令の一部を改正する政令を読む限りでは、アナログチューナー非搭載のものを、録音録画保証金の対象機器から除外する様には、私には読み取れない。

光学的方法(波長が四百五ナノメートルのレーザー光を用いることその他の文部科学省令で定める基準に従うものに限る。)により、特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、直径が百二十ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が〇・一ミリメートルのものに限る。)であつて前号ロに該当するものに連続して固定する機能を有する機器
著作権法施行令の一部を改正する政令新旧対照条文

従って、政令に関しては、文化庁の「アナログチューナ非搭載DVDレコーダは私的録画補償金の対象である」という見解は、私は正しいし、文化庁としてはその通りに答えるほかないと考える。


それでは、本田氏が問題にしている施行規則に関して考えてみる。

施行通知が関係各所(この問題の場合、文科省だけでなく経産省も関わるため、通知には“両省は”と繰り返し書かれている)に示され、了承を得た上で政令が閣議にかけられる。閣議での承認を得る前提で作成されるもので、もっとも明確な政令の解釈指針と言える。

 その施行通知において、アナログチューナを内蔵していないレコーダの後ろにあえて“等”と付けて範囲を拡げた上で、デジタルチューナのみのレコーダに関しては、別途、話し合いをしましょうね。まだ合意はしていないですよ。と記しているのである。

政令が改正されている以上、経産省文化庁はブルーレイを私的録音録画補償金の対象とする事に合意したと言える。経産省文化庁が「デジタルチューナのみのレコーダー」に関しては合意していないのであれば、政令に反映されていなければおかしいが、政令を見る限りは、アナログチューナーとデジタルチューナーを特別に区別しているわけではないようだ。つまり、デジタルチューナのみのレコーダーに関しても私的録音録画補償金の対象とする事に、経産省が同意していることになる。


著作権法に「対象機器は政令によって決定される」と書いてある以上、施行通知で何を書こうが、政令が全てである。裁判所は該当の機器を政令と照らし合わせて、録音録画保証金の対象かどうかを判断する。従って、権利者がメーカーを訴えた場合、裁判所が著作権法の条文だけを読んで判断するのであれば、権利者側が勝つ可能性が五分以上はあると考える。また、施行規則には以下のようにある。

アナログチューナーを搭載していないレコーダー等が出荷される場合、及びアナログ放送が終了する平成23年7月24日以降においては、関係者の意見の相違が顕在化し、私的録画補償金の支払の請求及びその受領に関する製造業者等の協力が十分に得られなくなるおそれがある。両省は、このような現行の補償金制度が有する課題を十分に認識しており、今回の政令の制定に当たっても、今後、関係者の意見の相違が顕在化する場合には、その取扱について検討し、政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずることとしている。
著作権法施行令等の一部改正の概要


解釈によるのだろうが、この文章は、何の意味もなく、何ら実効性がないと私は考える。「関係者の意見の相違が顕在化」「取り扱いについて検討」「政令の見直しを含む必要な措置を適切に講ずる」と、何ら、具体的にはなっておらず、抽象的な表現に終始している。つまり、やってもやらなくてもいいのだと捉えるのである。


文化庁・権利者の立場としては「政令を変えたもの勝ち」であるだろうし、経産省政令を変えることに同意した。一方、メーカー側は、法律、政令では勝負にならないから、著作権法の趣旨をふまえた上で「アナログチューナー非搭載のレコーダーを録音録画補償金の対象にする事は、著作権法の趣旨に反している。従って、違法である」事を立証しなければならないが、それは簡単なことではないと思うのである。


問題は、なぜ経産省がこのような文化庁政令に合意したかであるが、個人的な推測では、双方とも嫌になったのではないかと考える。つまり、メーカー側の利害しか主張しないJEITA、権利者側の利害しか主張しないSARVHに経産省文化庁も嫌気がさして、「当事者側で解決しなさい。解決できないのであれば、裁判を起こしなさい」と思ったのではないだろうか。


あまりにも自己中心的なメーカー団体、権利者団体に嫌気がさして、経産省文化庁も調整を放棄したのが、事の真相ではないかと思う次第である。