JASRACに音楽家の総意は反映されているのか

ちまたで、小寺氏の気合いの入ったコラムが話題になっている。私も興味深く読んでいる。一番気になったのが、下に引用するくだりである。このコラムのキモと言ってもいい部分ではないだろうか。

だがちょっと待って欲しい。権利者といっても、いつも議論の舞台に登場するのはJASRACを始めとする権利団体だ。本当の意味での著作権者である音楽家達は、補償金やDRMなどのことをどう考えているのかという話は、ちっとも伝わってこないのである。

これはどう考えても、議論の席に座る人のバランスとしておかしいだろう。その権利者団体が、果たして正しくミュージシャンなど芸術家の総意を代表していると言えるのかがはっきりしないことには、権利者団体と話し合いをして意味があるのかも、実はわからないのではないか。
小寺信良:「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言 (1/4) - ITmedia LifeStyle


これに関する私の意見は、JASRACは音楽家の総意とまでは言わないが、ある程度の意志を反映していると言える。少なくとも、意志を反映させるシステムは整っている。もし、音楽家の意志がJASRACに反映していないというのならば、それは音楽家自身の問題である。

ネットでJASRACに関する意見をみるが、批判されている方々の多くは「JASRACは音楽家とは切り離されている組織で、基本的に音楽家と対立する存在であり、音楽家を搾取することによって組織を維持している」と思われているようだ。私の見方は違う。JASRACは音楽家で組織されている団体であり、また、音楽家のために奉仕する存在でもある。音楽家はJASRACの行動に対して選択権があるが、残念なことにその力を意識してないと考えている。

JASRACの意志決定がどのように行われているのか、サイトから引用してみよう。

JASRACには議決機関として、総会、評議員会、理事会があり、それぞれ定款に定められた運営に関する重要事項を審議・決定します。

役員の任期は3年で、3年ごとに正会員による評議員選挙を経て決定されます。会長は評議員会での選挙で、正会員の中から選ばれ、理事は評議員会において評議員の中から選任(作詞家、作曲家、音楽出版者理事)、また、学職経験者、 JASRACの職員の中から評議員会の承認を得て会長から委嘱を受けます。

理事長は理事の互選で決定し会長が委嘱します。監事のうち2人は評議員会において正会員の中から選任され、1人は学職経験者、JASRACの職員から評議員会の承認を得て会長が委嘱します。
議決機関 JASRAC


ざっと見る限り、基本的に民主主義に則っている事がわかる。評議員国会議員に相当し、理事は大臣、理事長と会長の区別がわからないが、総理大臣に相当すると考えられるのかと想像する。そして、正会員は国民に相当するのであろう。正会員が自分たちの代表である評議員を選び、評議員の中から理事が選ばれる。そして、理事が自分たちの代表である理事長を選択すると言うことになる。つまり、国民が選挙で政治家を選ぶプロセスと全く同じである。少なくとも、建前ではそうなっている。

このように考えていくと、「JASRACに音楽家の総意が反映されていない」と言う質問自体、おかしな事に思える。「選挙に民意が反映されていない」と言うのと同じであると言える。音楽家の意向が評議員選挙に反映され、民主主義のプロセスでJASRACの方向性が決まっていく訳だ。民主主義である以上、数の論理が通用するわけで、少数意見が反映されないとしてもやむを得ない。

以上より、JASRACには音楽家の意志が反映されていると考えられる。JASRACには著作権使用料の分配が不明瞭とか、音楽出版社に搾取されているのではないかという問題があるのは確かだと思う。しかし、それは音楽家内部の事であり、音楽家自身がその方向性を選択している以上、私がとやかく言うつもりはない。