JASRACに手出し出来ない文化庁


間が空いてしまった。


前回、なぜあれほど主務官庁にこだわっていたかというと、JASRACを指導監督するのはどこなのかと言う疑問があったからだ。JASRACには二つの足かせがはめられており、一つは特殊法人としての足かせであり、もう一つは著作権等管理事業法である。このうち、特殊法人としての足かせは、現状では機能していないように思う。JASRACの主務官庁は文部科学省であるが、著作権を取り扱っているのは文化庁である。文化庁の思惑を無視して文科省JASRACを指導監督するはずもないし、文化庁JASRACを指導しろと文科省に指図する姿も考えにくい。縦割り行政の中、特殊法人としての足かせはほぼ無力だと考えていいだろう。


さて、肝心の著作権等管理事業法だが、これが驚くほどザル法であるのだ。ザル法と言っても、悪い意味ではなく、法律の趣旨に基づいて規制を甘くしているので、これはこれでまともな法律だとは思う。ただ、JASRACの足かせにはならないと言うだけの話。


歴史を簡単に踏まえると、以前は著作権の管理事業を行うものは仲介業務法(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律)によって縛られていたのだが、新規参入を容易にするため、規制緩和の一環として仲介業務法を廃止し、著作権等管理事業法が施行された。詳しい経緯は著作権等管理事業法の制定とその背景をご覧ください。


さて、著作権等管理事業法によって、音楽分野の著作権管理におけるJASRACの独占体制が崩壊し、新規参入が容易になった。なんだ、良いことずくめじゃないかと思う人も多いだろうが、よく考えてほしい。新規参入が容易になるのは何を意味するかと言うと、規制が緩和される。つまり、今までJASRACを縛り付けていた鎖が解放されることを意味するのである。新規参入業者を増やすためには、国からの干渉をできるだけ低くせざるを得ない。国からあれこれ指図するような分野に新規参入が盛んになるわけはないので、ハードルを下げざるを得ないが、強力な存在であるJASRACすらもその低いハードルに合わせれば良くなってしまったことになる。


では、具体的に、ハードルがどの程度下がったかを見てみよう。おあつらえ向きな事に、文化庁のサイトに管理事業法と仲介業務法の比較があるので、そこを観てみよう。注目するべきは、以下の所だろうか。


管理委託契約約款が「許可制」から「登録制」となった
使用料規程が「認可制」から「登録制」となった

つまり、契約の約款も、使用料規程もJASRACが自由にきめていいよと言っているわけ。極端に言えば、提出さえすればそれでOK。文化庁は判断しないよって事ですね。


文化庁長官に対して、仲介業務法では「業務実施、業務変更に関する許可,使用料規程の認可、業務報告書及び会計報告書の提出」と言う義務があったが、著作権等管理事業法下では「事業の変更,廃業等,管理委託契約約款,使用料規程」を届ければよくなった

これも文化庁著作権管理業者に関する権限を小さくするための施策ですね。「業務報告書と会計報告書の提出」の提出義務がなくなったのは、結構大きな事かも。


文化庁長官の監督権限については、「業務執行方法の変更命令その他の命令」が「業務改善命令」に変わった

基本的に違いはないので、うっかりすると見過ごしてしまいますが、これも大きな変更点ですね。変更命令と、改善命令とでは天と地ほどの開きがありますね。



さて、以上のように著作権等管理事業法では、仲介業務法と比較して文化庁の権限が大幅に縮小されたわけである。民間事業者の新規参入が容易になったところで、ガリバーJASRACに対抗することが出来るはずもなく、JASRACは強大な力をそのままに、文化庁の足かせから逃れることが出来たという訳である*1。結果論で言えば、民間参入を容易にしたはずの著作権等管理事業法によって、皮肉にもJASRACの力が強くなったと言うことになる。


文化庁が相対的にJASRACの力を弱めたかったというのであれば、このような形式は取るべきではなかった。国鉄みたいにJASRACを分割するか、NTTみたいに特別な法律を作ってJASRACに足かせをはめさせた上で、著作権等管理事業法を施行するべきだったと言える。逆に言えば、そうしないで著作権等管理事業法を施行させたというのは、JASRACの力を押さえつけるべきではないという文化庁の意図が働いたのかも知れない*2

*1:文化庁JASRACに対する監督権限を放棄したとも言えるかも

*2:こんな事を書いておいてなんだけど、私自身はJASRACの相対的な弱体化には反対する立場だし、著作権等管理事業法には肯定的な見方をしているので、あしからず