角川社長の考えていること

昨日に引き続き、閲覧権の話。昨日とは別のアプローチで。

「YouTubeは世界共通語」――角川会長の考える“次の著作権” (1/2) - ITmedia NEWSを読んでいると、都合の良いことばかり言っているなと思う。


ぶくまコメントに書いたとおり、「"角川会長の考える“次の著作権”」とは、「角川会長に取って都合の良い“次の著作権”」ではないかと思うのだが、はてなブックマーク - 「YouTubeは世界共通語」――角川会長の考える“次の著作権” (1/2) - ITmedia Newsを観る限り、意外なほど好評なので自分の感覚に疑いを持ってしまう。


角川社長がネットに理解があるというのは確かだし、非常に頭の回転が早い方だと思う。さすがにネットを活用し、一定の成功を収めた方だと思うのは確かなのだが、角川会長がここで述べている「次の著作権」と言うのは、角川グループに取って利益が最大化する著作権であることもまた確かなのだろうと思う。


角川社長の真意を知るには、どの立場で発言しているかを把握することが重要であろう。角川社長は「著作権法を機能させるには、著作者、コンテンツ事業者、国民の3者の合意が必要だが、3者とも今、閉塞感に包まれている」と語っているのだが、コンテンツ事業者の立場で発言していると考えると、氏の真意が見えてくるのではないかと思う。つまり、著作権は持っていないか、一部しか持っていない、他者のコンテンツを使用し、国民から利益を得る立場で発言していると仮定して考えてみる。

米国は、DMCAデジタルミレニアム著作権法)など、ゆるやかな著作権の仕組みに支えられてYouTubeがある。日本だと、YouTubeに権利をクリアしていないコンテンツが上がっているとすぐに訴える、という話になるが、DMCA法なら権利者から権利侵害を指摘された際にコンテンツを下げれば問題ない」

Youtubeに権利をクリアしていないコンテンツが上がっていると訴えるという話は、日本においても聞いたことがない。Youtubeニコニコ動画*1に無許諾コンテンツがアップロードされた場合、訴訟より先に削除を依頼するのは日本もアメリカも変わらない。

では、角川氏がなぜこのような、日本の著作権法に問題があると主張しているのかというと、角川グループでも、ユーザーが映像を配信するための場を作ろうという動きがあるのかなと考える。しかし、そのようなサービスを行う場合、現行の著作権法では訴訟リスクが避けられない。万が一の訴訟リスクを避けるために、著作権法で免責制度を用意して欲しいのではないだろうか。


「2次利用よりももっと軽い権利で、コンテンツを自由に楽しんでもらいながら、安価な閲覧料を徴収するなどし、著作者にも一定のお金が入るような仕組み」を想定しているといい、「超流通」の考え方に当たるという。「著作権法著作権者やコンテンツ事業者を保護しすぎているという批判もあるが、こういう仕組みができて始めて、著作者・コンテンツ権利者・国民の3者間でwin-winの関係が築ける」

閲覧料を徴収するというのは、ビジネス的に優れた発想だと思う。一石二鳥、三鳥の効果を狙っているのではないだろうか。


利点その1
リリース直後のコンテンツはDVDや次世代DVDなどのパッケージ販売で利益を得て、ある程度時間が立てば有料ネット配信やレンタルで利益を得て、利益が見込めなくなったら無料で配信し閲覧料を手にする。無料で配信することでパッケージやレンタルの需要を喚起する事にも繋がる。まさに、一つの作品で何度でも対価を徴収することが可能であり、乾いたぞうきんを絞りきるがのごとく、利益が得る事ができる。


利点その2
無料のネット配信を閲覧することで利益が徴収できる点を、著作者、著作権者への説得材料へ使用することが出来る。Youtubeニコニコ動画にコンテンツをアップロードする事を難色を示していた著作権者も、対価を得られることが分かれば喜んで同意するだろうと言う計算が働いているのではないだろうか。


利点その3
閲覧料の全てが著作者に行くわけではなく、コンテンツ事業者にも幾分は配分される事は必至。無料ネット配信に参加する企業が増え、ネット配信市場が大きくなる。市場が大きくなればなるほどコンテンツ事業者は利益を得ることが出来る。


このように書いてみると、いいことずくめであるかのように思う。しかし、決定的な問題が一つある。コンテンツ事業者の利益に繋がるようなことを、なぜ国が率先して、法律を変えて行わなければならないのだろう。上で書いた著作権の免責制度も、閲覧料の徴収も、著作権法を変える事なく実施することは可能なのである。著作権の場合、規制ではないので、著作権法を侵害しようが権利者が同意すれば何を行っても問題ないのである。

JASRACを引き合いに出すんだったらさ、動画の権利の集中管理機構でも、それこそ10年ぐらいかけて準備して、Youtubeなりニコニコなりと包括契約結べばいい話じゃないの?

徴収方法どうするのよ? 上記の報道のブクマコメントでも指摘があったように、ネットそのものの接続料に上乗せってのが現実解だろうけどさ、わはは、なんだよそれ!
閲覧権だぁ? - 万来堂日記3rd(仮)

id:banraidou氏が指摘しているとおり、角川社長の言う「閲覧権」なるものは、権利を創設しなくても、角川グループが制度を全て整え、権利者団体との同意を取り付け、対価の徴収方法を考えた上で始めればそれで済むのである。

一方、閲覧権なるものを創設した場合、国が徴収方法や分配方法を決めなければならない。全ての国民、全ての著作者、全てのコンテンツ事業者を、国が説得し調整し、制度作りを行うのであるが、これが至難の業であることは容易に想像できる。分野が非常に限定されている私的録音録画補償金でさえ、あれだけ揉めているのである。閲覧権ともなると、範囲が私的録音録画補償金とは比較にならないのだから、これがどれほど至難のものであるか、検討もつかない。


以上、もろもろの事を考えると、角川社長の仰ることにはとても同意できないというのが結論である。

*1:そう言えば、ニコニコ動画に対して触れていないのはなぜなんだろ