フェア・ユース


ネットを巡回していたら半可思惟と言うサイトを見つけた。フェア・ユースはかねがね関心を持っていた分野でもあるので、コメントさせていただきました。いい機会なので、フェア・ユースに関して思うところをまとめておこう。

第107条 排他的権利の制限:フェア・ユース

第106条および第106A条の規定にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェア・ユース(コピーまたはレコードへの複製その他第106条に定める手段による使用を含む)は、著作権の侵害とならない。著作物の使用がフェア・ユースとなるか否かを判断する場合に考慮すべき要素は、以下のものを含む。


(1) 使用の目的および性質(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的かを含む)。
(2) 著作権のある著作物の性質。
(3) 著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性。
(4) 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響。


上記の全ての要素を考慮してフェア・ユースが認定された場合、著作物が未発行であるという事実自体は、かかる認定を妨げない。

外国著作権法令集 アメリカ編


アメリカ憲法や、アメリカ著作権法に横たわっている考え方に関しては、それほどの知識を持っていないので、字面だけを読むと

  1. 著作物をフェア・ユースする場合、著作権の適用は除外される
  2. 何がフェア・ユースかは、様々な要素を総合して判断する

と解釈できる。



日本の著作権法は、例外規定に関して事細かに法律に記載されており、著作権に関して利用者と権利者が争う場合、裁判官は法律に照らし合わせれば済むことになる。法律に書いてある以上の事は判断しない。一方、アメリカの場合は、例外規定に関しては何も記載されておらず、何がフェア・ユースなのかは裁判官自らが判断しなければならない。ルールを決めるのは、裁判官なのである。


さて、日本とアメリカの例外規定を比べてみた。何が違うのかというと、日本では何が著作権法の適用除外となるのか、法律に書いてあるので、実質的にグレーゾーンが存在しないことになる。一方、アメリカは例外規定に細かい既定が載ってないため、全ての著作物の利用がグレーゾーンと言うことになる。ただし、これは一面的な見方であり、日本の場合は訴訟を起こしにくいためにグレーゾーンの範囲が広く、逆にアメリカは訴訟を起こしにくいためにグレーゾーンの範囲が狭いとも言える。アメリカは著作権法上のグレーゾーンが広く、日本は著作権法運用上のグレーゾーンが広いと言うことになるだろう*1


日本とアメリカ、どちらのシステムがいいのかはそれぞれ一長一短があり、トレードオフの関係にあるとしか言いようがない。日本の場合、自由度が極端に低い代わり、法律に従っていればよほどの事がない限りリスクを負わない。窮屈だけど安定な世界に住んでいるのが日本の著作権制度である。対して、権利者と利用者がお互いのルールをぶつけあって、時には合意したり、時には訴訟したりするのがアメリカである。確かに、利用者に関しては自由な制度である。今までルールのなかった所でも、訴訟で勝てば利用者のルールが認められるわけであるが、これは権利者にとっても有利に働く場合がある。有名な、ベータマックス訴訟が好例である。


ベータマックス訴訟は利用者側のフェア・ユースが認められたと受け取る人が多いが、私は違う見方をしており、間一髪で利用者側が負けるところだったと解釈している。日本なら、適用除外の条項に私的複製が含まれているため、映画会社が訴訟を起こしたとしても敗訴していたケースだろうが、フェア・ユース条項のあるアメリカでは、映画会社が勝訴する可能性が十分にあったのだ。判決一つで、今までのルールが変わってしまうのが、フェア・ユースの側面であると思う。下にITmediaのニュースを引用するが、裁判で利用者側が必ず勝つわけではなく、負ける場合もある。リスクを負いながら、自分たちのルールを作っていこうというのがアメリカの姿勢なのだと思う。

またEFFは、多くの勝利を収めているにもかかわらず、同団体が敗訴したらそれが判例となってしまい、その後の訴訟で勝つのがもっと難しくなるという批判も受けてきた。ファイル交換訴訟では、EFFは下級審で2度勝訴したが、最高裁は「違法な用途があるからという理由で、無条件に技術を禁止するべきではない」という1984年の判決の適用範囲を狭めた。
Expired


私個人的には、日本でもフェア・ユースが導入されるべきだと思っているが、制度を使いこなすには利用者の努力や熱意、労力が必要になる。訴訟を起こすにはエネルギーが必要だろうし、何がフェア・ユースなのかを巡って権利者側と交渉する必要が出てくるだろう。権利を勝ち取るためには、対価が必要なのである。

*1:レッシグ先生は日本の同人誌の現状をうらやましがっているが、きっと著作権法運用上のグレーゾーンが広い事を指しているのだろう