さんさん録


ネタバレ注意。


こうの史代さんの漫画はおっかない。惹句には「男やもめで専業主夫、参さんのハートフルストーリー」とあり、確かにハートフルではあるんだけど、どこからか深い闇のようなものが漂っているような気もする。なんというのかな、人間の黒さと言うものを暖かく、柔らかく描いているって事なんだろうか。書いてて訳が分からないや。


基本的なストーリーは惹句にあるとおり。奥さんに先立たれてしまい、生きる意味を失ってしまった主人公の参平さん。しかし、彼には奥さんの遺した一冊のノートがあった。ノートを頼りにしながら息子一家の家事全般をこなしていくうち、参平さんは生きる意味を少しずつ取り戻していくのであった。あ、こういう話だったんだ。なるほど。


さんさん録でこうのさんが何を描きたかったのかというと、人間関係なんだろう。ストーリーが進むうちに、参平さんは二人の主要な人物との関係が変化していく。そして、その変化を描くことで、参さんの内面の変化が浮かび上がってくるのである。


一つは、親子関係。参平さんは仕事人間で、奥さんや息子の詩郎さんに顔を見せることがあまりなかった。参さんのせいで、母親が苦労ばかりだったと息子さんは思いこんでいるので、当初は参さんと息子さんは反発している。しかし、家事をこなしていく父親の姿を見るうちに、詩郎さんは徐々に参平さんの事を理解するようになり、親子の仲も改善するようになっていく。そして、参平さんも、家事をこなすことで、息子さんの家族の一員となっていくのである。定年が過ぎ、居場所をなくしたお父さんが、家族内での役割と居場所を発見するストーリーだと捉えることもできるでしょう。


さて、もう一つが仙川さんであろう。仙川さんは、三十代の綺麗な女性であり、人材派遣会社の職員である。詩郎さんをヘッドハンティングしようとしたのがきっかけで、参さんと知り合うようになり、様々なイベントがあり、関係が深まるようになっていく。仙川さんが登場したことで何が変わったかというと、この物語が華やかになってきた。男やもめの参さんに、彩りを添えているのが仙川さんなのである。


さて、参平さんは仙川さんとの関係を深めていくうちに、段々と自分を理解するようになっていく。仙川さんもまた、参平さんとの関係を深めていくうちに、内心が変化するようになっていく(ように思う)。自分というものを理解すること、そして自分の内心が変化すると言うことが、いかに素晴らしいことであるのか、いかに痛みを伴うことであるのか、この物語は語っているように思える。


最終回の一つ手前で、今まで支えてくれたノート、奥さんの形見のノートを参平さんは息子さんへと手渡す。参平さんは、ノートに支えてもらう必要がなくなったと言うことなんだろう。と言うことは、最終回は参平さんの再出発を意味しているんだろうね。今までは死んだ奥さんに支えられていたけど、その支えはいつか必要がなくなって、新しい人生がスタートするって事を意味しているんだろう。


ぐだぐだな感想となってしまったので、この辺で。


さんさん録 (1) (ACTION COMICS)

さんさん録 (1) (ACTION COMICS)