夕凪の街 桜の国 あらすじ編

今日という日に合わせて、感想を書いてみる。その前に一つ。この物語は確かに名作だと思う。何度も何度も、繰り返し繰り返し読んでいる。読んでいるうち、ふと一つの思いにとらわれることがある。それは、「原爆が広島に落とされなければ、夕凪の街 桜の国という名作はこの世に生まれなかった」と言うことである。少々、複雑な思いがしてしまう。


未読の方のために、簡単に説明すると、「夕凪の街 桜の国」と言う物語は、広島に生まれた一族の年代記である。「夕凪の街」「桜の国」と言う二つの短編から構成されている。


「夕凪の街」の舞台は広島である。原爆投下前は幸せに暮らしていた一族であるが、家族のほとんどを原爆で失い、生き残ったのは母と姉と弟の三人である。弟の旭は、疎開先で養子になったので、広島に住んでいるのは母のフジミと姉の皆実の二人である。「夕凪の街」は、主人公は、皆実である。皆実は日々の生活に満足しているようであるが、十年前の惨劇のダメージから回復しきってはいない。ことある毎に、原爆の光景がフラッシュバックしてしまう。好きだった男の人から告白を受けたにもかかわらず、幸せになることに恐怖感と罪悪感を感じてしまい、告白を受けることができない。そして、原爆放射線の後遺症のため、皆実は二十三歳の若さでこの世を去ることになってしまう。


世代が代わり、「桜の国」では皆実の姪であり、旭の娘である七波が主人公となる。「桜の国」は(一)と(二)に別れており、(一)の舞台は中野区である。母親を亡くしているものの、七波は活発な野球少女として日々を送っている。ある日、ボールが当たって鼻血を出した七波*1は、野球の練習を抜けだし、お隣の東子と一緒にぜんそくで入院している弟のお見舞いへ行ったのであった。そこで、弟を励ますため、病室で桜のはなびらを蒔いた七波であるが、見舞いと検査に来ていた祖母に見つかって、殴られてしまう。そして、数ヶ月後、検査の結果が悪かった祖母はなくなった。秋には、凪生は通院に切り替わり、七波や旭は病院の近くへと引っ越すことになったので会った。


桜の国(二)は、(一)の17年後を描いた物語である。七波は旭の不審な行動を追跡するうち、東子と再会することになる。旭が広島行きの高速バスに乗った事を確認し、七波は家に帰ろうとするが東子の方が旭を追跡することに乗り気で、七波にお金と上着を貸し、二人は同じく広島行きの高速バスに乗り込む。車中、七波は東子を敬遠していたことをモノローグで語る。七波に取って、中野の旧宅は、祖母が死んだ時の記憶、母親が死んだ記憶のトラウマがあり、東子はトラウマの象徴なのである。そのような複雑な思いを抱きつつ、七波は広島で父親を追跡する。


そのうち、東子は平和公園に行くことになり、父親を追跡する七波と別行動を取る。しばらく、父親を追跡していたが、さすがに飽きたので、東子に連絡を取ろうとする。連絡するため、上着のポケットを探るうちに凪生からの東子宛のメモを見つける。メモには、東子の両親が凪生が働いている病院に姿を見せて、東子と会うなと言ったと記されていた。凪夫と東子は交際していたのだが、東子の両親は凪夫が被爆二世だという事に特別な感情を抱いていた模様である。さて、七波と東子は再会するが、原爆資料館で惨状を目の当たりにした東子は気分を悪くし、吐いてしまう。七波と東子はラブホテル*2で休息を取り、東京行きの高速バスに乗り込む。


車中、七波は被爆者二世に対する差別意識と、自分が東子に対して持っているトラウマを重ね合わせて考える。東京に帰り、中野で東子と凪生を引き合わせた後、七波と旭は再会する。そして、旭の次の言葉で物語は締めくくられる。

今年は父さんのいちばんあとまで生きてた姉ちゃんの五十回忌でな、それで姉ちゃんの知り合いに会って昔話を聞かせて貰ってたんだよ。七波はその姉ちゃんに似ている気がするよ。お前が幸せになんなきゃ姉ちゃんが泣くよ。*3


ずいぶん長くなったので、感想は後で。

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

*1:色気も何もあったもんじゃねぇな

*2:なぜラブホテル?

*3:この後、「何なら父さんの合コン仲間紹介してやろうか?」と続くんだけどね