JASRACは「おふくろさん」を利用禁止にしたわけではない

基本的に例の「おふくろさん」に関してですが - あそことは別のはらっぱ。の焼き直しですが。


まず抑えておきたいのは、JASRACが利用禁止をする際、どのように発表するかです。例えば、中虎連合会*1の事件の時、JASRACは以下のようなプレスリリースを出しています。

著作権法第121条(著作者名の詐称)違反として告発がなされたことを確認しましたので、信託契約約款第29条1項(※)により、本日をもって利用許諾の中止の措置(管理除外)を講じました。
応援歌「ヒッティング・マーチ一番(2002)」「ヒッティング・マーチ二番(2002)」について


JASRACの言い方では、利用禁止する際は「利用許諾の中止」と言うことが分かります。これを踏まえて「おふくろさん」に対するJASRACのプレスリリースを見直してみましょう。

また、あらかじめ、改変されたバージョンが利用されることが判明した場合には、利用許諾をできませんので、ご了承ください。
「おふくろさん」のご利用について


お分かりの通り「許諾しない」とか「許諾の中止」と言う表現を使わず、「許諾をできません」と言う表現を使っています。深読みすれば色々と考えることができませんが、素直に「JASRACは改変バージョンを許諾する権限を持っていない」と考えるべきでしょうね。

では、なぜJASRACが許諾できないのか。それを考えていきたいと思います。まず、今回の森進一氏の「おふくろさん」改変については、2パターンが考えられます。パターン毎に切り分けていきましょう。


1.森進一氏の改変により「おふくろさん」という曲が別物になってしまった場合

森進一氏の改変により、「おふくろさん」と言う曲が別な曲になってしまったとします。原曲と区別するために、ここでは「おふくろさんダッシュ7」とでもしておきます。

この場合、「おふくろさんダッシュ7」はJASRAC登録曲であるところの「おふくろさん」とは別な曲であるわけです。つまり、「おふくろさんダッシュ7」はJASRAC非管理曲であるわけですので、JASRACが許諾できるはずはありません。

もし、JASRACが「おふくろさんダッシュ7」を許諾したとしたら、JASRACは権限外の曲を許諾してしまうことになり、それはそれで大問題です。

もっとも、この場合は「おふくろさんダッシュ7」はJASRAC管理曲ではないのだから、JASRAC著作権使用料を徴収する資格があるかという事が問題になりますね。


2.森進一氏はあくまでもバースを付加しただけであり、「おふくろさん」は別物になっていない場合

この場合は「森進一氏は曲を改変していないのだから、JASRACが許諾できないというのはおかしい」と言う意見の方もおられるかとも存じますが、そうではありません。

この場合を式で書くと「バース部分+おふくろさんオリジナル」と言う事になります。つまり、このケースに関してJASRACに許諾を求めると言うことは、バース部分も含めて許諾を受けると言うことを意味します。

しかし、現在のところバース部分がJASRAC管理曲だと言う証拠はありません。バース部分はJASRAC非管理曲だと言う事になります。JASRAC非管理曲である曲をJASRACが許諾できるわけがありません。

また、この考え方であれば、改変バージョンを作ったり歌ったりするのは自由です。「おふくろさんオリジナル」を許諾している以上、訴訟リスクを負った上でバース部分を付け加えるのは自由と言うことになります。

JASRACも「あらかじめ、改変されたバージョンが利用されることが判明した場合」と言っているわけで、「やるなら黙ってやってください。ただし、JASRACは関知しませんよ」と言っているも同じでしょう。


つまりはこうです。JASRACは当たり前の事を言っているに過ぎません。そして、JASRACは「おふくろさん」問題に介入する気もなければ、作詞家と歌手の間を調整する気もないという事だと思います。

*1:作詞家・作曲家不詳の曲を自分の曲だと偽ってJASRACに登録した