長い道

夕凪の街 桜の国で一躍有名になったこうの史代さんの最新刊。昨日買ってきて、早速読みふけりました。読後、「これなんてエロゲー」と思ったのはナイショです。

カバーには

夫 カイショなし。
妻 ノー天気。

そんな二人のあったかくておかしくて切なくて
心にしみる54のプチ物語

とあります。そんな生やさしいものではないのですが、それはおいといて。54の物語とあるように、54編の漫画が掲載されています。おわかりかと思いますが、ショートショートです。一編あたり3ページから4ページくらいしかありません。ページ数が少なく、月刊誌に掲載されていたものなので一編あたりの密度が大変濃い漫画ですね。

老松夫妻の夫婦生活を描いた漫画なのですが、これがなかなかすごい夫婦です。なにせ、奥さんがいきなり男の元に押しかけてくるのです。ある日男の元に手紙を携えた女の人(天堂 道)がやってきます。手紙には「喜べマザコン! 飲み屋で知り合った人が娘さんをくれたぞ」と書いてあり、婚姻届も添えてあります。婚姻届にはその道さんの署名がされており、二人はなんとなく夫婦になりましたというお話。道さんは割とこの生活に馴染んでいるみたいですが、旦那さんは女好き。かてて加えて、道さんは旦那の好みではないので、旦那さんは浮気したり離婚を考えたりするのですが、なんとなく二人は一緒にいるというお話。

こう書くと、道さんが悲惨に思えるかも知れないのですが、実は道さんの方が主導権を握っているのが面白いところ。旦那さんは道さんの掌で踊らされているような気さえしてきます。どうも道さんは過去に恋人と別れざるを得なかったようなのですが、その過去のお話が、明るい道さんに陰影を加えております。この辺りは、「で 誰?」「けんか傘」「道草」「いつか来た道」で描かれていますね。「けんか傘」なんかは、道さんのちょっと怒ったような表情が出てきて、なぜかドキドキしてしまいます。

叙情的なお話がメーンだと想いますが、「さつまいもちゃん」「水鏡」「老松道漂流記」「収縮」みたいに奇想天外なお話もありますね。特に、「老松道漂流記」はかのドラえもんの名作「のび太漂流記」を連想します。夕凪の街 桜の国にも、視点が現在から過去に移るシーンがあったし、こうのさんは意外とSFが好きなのかな。

あと、上にも書きましたが「いきなりおしかけ女房」「セーラー服」「スクール水着」「お兄ちゃんべったりで、お兄ちゃんと一つの布団で眠る妹」「女同士のキス」など、これなんてエロゲー的なシーンも忘れてはいけません。

全体的に言えば、暖かく、懐かしく、そして奇妙な味のする短編集ですね。お勧めです。


[8/2追記]
「昔の人」に出てくる男の人が竹林さんだと言うことにようやく気が付いた。最初読んだ時、なんでこの人達抱き合ってキスしているんだろうと思っていたんだけど。タイトルに気が付けば容易に分かったはずなんだが、なんて俺は鈍いんだろう。

あと、「膨張」と「収縮」って対の話なのか。これも今日読むまで気が付かなかった。トホホホホ。

長い道 (Action comics)

長い道 (Action comics)