理系の待遇が悪いのは、意外と単純な理由なのかも知れない

一応、理系大学を出たもので、理系の待遇の悪さには色々と関心を持っている。いや、私自身の待遇はどうでもいいのだが、待遇の悪さが理系離れを呼ばなければいいのになと思っている。


ところが、ある教育関係の本を読んでいたとき、気になる記述にぶつかった。

実際に日本の高等教育システムは、毎年約五十万の学士を労働市場に供給してきました。さらに、西欧・北米などの人々にとっては信じがたいことに、そのうち約20%の約十万人が、工学部の卒業生だったのです。この、毎年十万人という新卒工学士の数は、過去においてはずっとアメリカを凌駕してきており、つまり人口当たりにすると、日本はアメリカの二倍の工学士を作り続けていたことになるのです。
新不思議の国の学校教育―日本人自身が気づいていないその特徴


これは少々驚くべき記述だと思う。アメリカに比べて人口が半分の日本が、工学部の新卒者数はアメリカに勝っていた事になる。この本では「工学者数の物量でアメリカを上回った」と結論付けている訳だが、待遇面から考えるとどうだろう。供給が多い訳だから、市場は買い手が優勢となる。待遇が悪いのもこれで結論づけられる気がする。


アメリカは工学部の新卒者数が少ないから待遇をよくしなければ、学生が会社に入社しない。日本は工学部の新卒者数が多いので、企業はさほど待遇をよくしなくても、学生は会社に入ってくる。単純な理論ではあるが、一応の説明は付いているようだ。


しかし、日本の工学部卒業者数がアメリカを上回っている事があり得るのだろうか。割合なら分かるのだが、絶対数だ。元の資料には、参考文献も詳細なデータも掲載されていない。著者が思いつきで書いていると言えなくもない。そこで、他のデータを探してみた。あった。そして、驚くべき事に、そのデータでもやはり日本の方が卒業者数が多かった。

では、中国は日本にとって脅威なのだろうか。理工系の卒業者数を比較してみよう。中国32万人、日本20万人、米国6万人の順になる。これを人口比で見ると、0.02%、0.15%、0.02%と、日本が両国に一桁違う優位性を持っている。増加率で見ると、中国の急増、日本の微減、米国の純減となる。中国の急激な増加率を加味しても、中国が日本の水準に達するには時間がかかりそうである。
NIKKEI NET(日経ネット):企業コラム−ITやベンチャー関連の専門家による米国事情

このデータもどの資料を引用しているか分からないのが残念だが、「人口比で見ると、0.02%、0.15%、0.02%と、日本が両国に一桁違う優位性を持っている」と言うのは、やはり尋常ではない気がする。してみると、やはり日本の労働力市場は、理工系の人材で溢れかえっているようだ。それなら、理工系の人材の待遇が悪いのも頷ける話ではある。