消費者金融考

前置き。消費者金融に関しては、不思議に思うことが一つある。消費者金融を借りたことがなさそうな弁護士や政治家や学者が中心となって議論していて、実際に借りている人、借りたことがある人の声があまり聞こえてこない。机上の空論に陥っているのではないかと思わないでもない。


さて、id:finalvent氏が、消費者金融について以下のように発言しておられる。もっとも、よく聞く意見なので、一般的に思われているのかも知れない。

この問題は大筋では銀行の問題なんだと思う。社会の公論を新聞社説が狙うならそこを切り込むべきではないだろうか。街金の金づるは銀行である。他国では消費者への金融業は銀行が担っている。そうしたあたり。
朝日社説 消費者金融 抜け道をつくるな - finalventの日記


言われてみれば、確かにもっともである。安い金利で銀行が貸せば、わざわざ高利の消費者金融から借りる必要はなくなる訳である。消費者金融はリスクの高い客を相手にする必要がなくなり、借り手は安い金利なので返しやすくなって、銀行は新たな顧客を手に入れることができる。みな幸福になれるのかも知れない。


それでは、他国の例を見てみよう。英国貿易産業省が2004年に発行し、早稲田大学消費者金融サービス研究所が訳した「英国、米国、フランスおよびドイツにおける金利規制の影響【PDF】」と言う資料がある。そこに、上限金利が設定してあり、なおかつ銀行が消費者への貸し出しを担っているドイツの例が載っているので引用してみよう。少々長くなるが、ご容赦を。

調査対象となったサンプルでは、ドイツの貯蓄銀行6(Sparkassen、低所得者層の主なクレジット源)の最低ローン額は2,500 ユーロ、多くの場合は5,000 ユーロに設定されており、正社員契約で最低6 か月雇用されている者に対してのみ供与される。


クレジット契約とともに締結される付随契約によって、貸付業者は所得(または債務者がその後失業に陥った場合には失業給付)から直接に返済を受ける権利を得られ、それによってさらに貸付業者のリスクを軽減することができる。銀行に口座が維持されてなければならず、給料はその口座に支払われなければならず、給料の受領時に返済額を引落すことができる。これらの条件を満たすことのできない借り手は、満たしている保証人を見つけなくてはならない。


雇用主のサインがある証明書など、包括的な証明書類をクレジットの申込書とともに提出することが求められ、この条件は厳格に守られている。
P.19

バイアスはかかっているかも知れないが、上記の記述をまとめると、

  1. 最低ローン額が高額に設定されている
  2. 正社員契約で6ヶ月以上雇用されている人が対象
  3. 銀行は所得口座から直接引き落とすことが可能
  4. 条件を満たしていない借り手は保証人が必要


など、様々な制約の元に、銀行が貸しているという事になる。ドイツの貯蓄銀行からお金を借りる場合、金利は抑えられているが使いにくい。また、日本の消費者金融からお金を借りる場合、金利は高いが使いやすい。どちらがいい悪いかではなく、単に考え方の問題なんだろうとは思う。


このレポートは、他にも興味深いことがたくさん載っているのだが、見逃せないのが以下の記述。

最も高いリスクの借り手に対して提供されたカードの残高は、他のすべてのカードに対するものよりも著しく低いということである。その平均残高が200 ドルであるのに対して、米国のリボルビング債務すべての平均残高2,400 ドルである。下の図14 でみられるように、そうした非常に低い残高のサブプライム層向けカードによる延滞の回数は他のすべての形態の債務の2.5 倍である。
P.29

日本の消費者金融では上限金利だけが問題になっているけど、延滞金も注目するべきじゃないのかなあ。