著作権との付き合い方 活字文化・出版関係者のために


文化庁著作権課長であり、現在は政策研究大学院大学の教授をしておられる、岡本薫氏の新著である。他の本と基本的には主張は変わらない。と言っても、「著作権の考え方 (岩波新書)」「日本を滅ぼす教育論議 (講談社現代新書)」「新不思議の国の学校教育―日本人自身が気づいていないその特徴」「教育論議を「かみ合わせる」ための35のカギ」位しか読んだことがないのであるが、それらの本と比べて、著者のスタンスは基本的に同じである。考えるための材料と、考え方を読者に対し豊富に与えてくれるが、どの考え方がいいのかは自分では言わない。新聞で報道されている様々な著作権問題を材料に、岡本氏が与えてくれる考え方をあてはめ、あれこれと考えをこね回すことは実に楽しい娯楽である。


ただ、本書でも著者のスタンスは変わらないのだが、副題に「活字文化・出版関係者のために」とあるように、ターゲットとなる読者を出版関係者と想定している所が、岡本氏の他の著書とは少々異なっている。岡本氏自身も「はじめに」で以下のように書いている。

本書は、出版界の利益と言う目標設定を行った上で論を進めたものであるが、法制面においても契約システム面についても、出版界の利益を増進させることができるのは関係者自身の努力のみであり、本書が少しでも頭の中の整理についてお役に立てば幸いである。

出版界の利益のための著作権の本というのはどういう事かというと、著作権を出版界がどう使いこなすかについて語られた本である。つまり、出版関係者の権利を強化する方向で書いており、一般読者が読むと受け入れられない部分も多々見受けられる。従って、一般の読者は読まない方がいいであろう。「出版界の利益のために書かれた本」である事を踏まえた上で、冷静に受け止められる読者でないと、この本は向いてないと思う。


私が興味を持ったのは、「すべての出版関係者が考えるべき課題(P.176)」と言う章であり、その中で著書は「『著作隣接権(版面権)』の獲得」を出版界の課題として挙げている。現在、著作隣接権を持っているのは放送局やレコード会社だけであり、それらの会社と同じような仕事をしている出版社が著作隣接権を持っていないのは私から見ても疑問であった。

なぜ出版業界が著作隣接権を持ってないのか。著者によれば、その原因は経済産業省が反対を貫いてきたからだという。なぜ経済産業省が反対していたかというと、それは経団連が反対しているからであり、要するに「産業界内部での合意形成ができていない」事が問題だと述べている。


簡単に触れるだけにとどめておくが、この本は上記の例以外にも、様々な著作権や、契約、民主主義についての考え方が載っており、非常に刺激を与えてくれる本である。著作権の考え方 (岩波新書)の拡大版であり、業界が著作権をどのように活用していくのかに絞った本であるといえる。

著作権とのつきあい方―活字文化・出版関係者のために

著作権とのつきあい方―活字文化・出版関係者のために