トヨタと内製

トヨタが自分勝手になる仕組み: 誰も通らない裏道と言うエントリを読んだ。このような文章を見ると思わず反論したくなってしまう。いくつかの点について、コメントしてみよう。

では実際にトヨタが自動車一台ついて自らつくっている部品はどれぐらいあるか(これを内製率という)。これは一昔前で3割といわれていた。おそらくこの比率はいまも大きくはかわっていないはずで、つまり残りの7割は他社から購入しているのである。つまりトヨタというのは製造業という顔を持つ一方で超巨大な購買者なのである(自動車産業が組立産業と呼ばれるゆえんでもある)

自動車産業が組立産業と呼ばれるゆえんでもある」と書いているのにも関わらず、批判の対象がトヨタというのは間違っているのではないか。内製率でトヨタを批判すること自体は構わないが、公平な批判のためには、同業他社の内製率を記載し、比較する必要があると思う。

例えば、ホンダの狭山工場の内製率は15%である。トヨタの内製率の低さを批判するのであれば、同時にホンダを批判しなければならないのではないだろうか。

内製率についてもホンダは言及した。狭山工場の内製率は15%程度で,残りの80%強はサプライヤーから調達するという。「コアコンピタンスの部品はすべて社内で造る」(同氏)ことが同社の基本姿勢。ただし,外部のサプライヤーに対する要求品質も高まっているという。
ホンダ,マザー工場である狭山工場を公開(その3)---長所と短所を知り抜き,人と機械を使い分ける(2ページ目) - 日経テクノロジーオンライン

もちろんトヨタのみならず日本の自動車産業全体にその傾向はある。というよりも日本は国家ぐるみで自動車産業を育成してきたともいえる。しかしながらそのなかでも圧倒的な力を持っているのがやはりトヨタなのである。そのトヨタの根本にあるのは「自分たちさえ良ければいい」という発想である。

これもよく分からない。「自動車産業全体にその傾向がある」事が分かっていながら、なぜトヨタをメインで批判するのだろうか。説得力が弱すぎるように思うのだ。

私だったら次のように書き換える。

「日本は国家ぐるみで自動車産業を育成して来たので、自動車産業全体の姿勢として『自分たちさえよければいい』と言う発想が根付いている。その、自分勝手な自動車産業の中でも、圧倒的な力を持っているのがトヨタである」

トヨタはこういうことをずっとしてきた。一方でたとえばアメリカのビッグスリーなどはかつてガラスまで自社で内製しようとしたこともある。つまりGMトヨタでクルマ一台に対する開発予算が同じだとしても、トヨタは全体の部品の3割への投資であるのに対し内製率の高いGMトヨタの3割以外のところへも資金を投入しなければならない。一方、トヨタはというと残り7割の部分に関しては各産業が勝手に莫大な研究投資をしてくれるから、結果的には一台のクルマに投じられる開発費がまったく違うということになる。

確かにアメリカのビッグスリーの内製率が、日本のメーカーより高いのは事実であるけれども、トヨタに代表される日本の自動車産業が内製というものを軽く見ていたわけではないと思う。トヨタはガラスは作っていないかも知れないが、自前の半導体工場を持っている。各産業が勝手に莫大な研究投資をしてくれるのであれば、トヨタ半導体工場を持つ必要は全くないはずだ。しかし、トヨタは敢えて半導体に投資をしているのである。

アウトソーシングにも色々な手法、考え方があるだろうが、トヨタを見る限り、外注先と同等以上のノウハウや技術力を持ち、やることをやった上で外注に出しているように思うのだ。


今回、富士スピードウェイでの運営の不手際は多いに批判されるべきだとは思うけど、この件とトヨタの内製率を絡めるのは適切ではないし、フェアでもないと思う。

最後に、トヨタの内製に関する考え方が分かる記事をいくつか挙げておく。

自動車に搭載する半導体には多くの種類があるが,自動車の基本性能や製造コスト競争に関する部分は自社製造しているという。金額ベースで5%が自社製,95%を半導体メーカから購入している。実際,同社広瀬工場(豊田市)内に2万8300m2の半導体工場を持っており,5インチと8インチの生産ラインがある。
<2004 VLSI速報>トヨタ,新型クラウン搭載の自社開発Si MEMSセンサーを明らかに - 日経テクノロジーオンライン

しかし、トヨタ自動車の内製部門でも独自に開発・生産をしていたため、お客様であるトヨタ自動車と競合することとなったのである。 とくに90年代半ば以降、この競合は激しさを増した。両社は方式も異なった。当社がDCモーター型であるのに対し、トヨタ自動車が超音波モーター型。技術的にも対照的な取組みがなされていた。
電動コラム | アイシンものづくり精神

トヨタは、注意深く内外製区分を決めている。ホイットニーの過去の観察では、高い技術及びスキルを必要とする自動車部品や生産プロセスの場合には、基本的には内製されていることが示された。これに対して、多くの自動車メーカーでは、技術的に挑戦的な部品やプロセスの多くは、アウトソースされ、サプライヤーに依存されることになる(Fine & Whitney, 1996)。
生産技術部門はシステムの「統合者」なのか? ―トヨタ自動車におけるドア設計・組み立てに関する研究ノート―

7. 部品の外注
外製率70%、内製率30%。
部品は部品メーカーと共同開発する(デザイン・イン)。
アメリカでは設計図を渡すだけで、両者の話し合いが無い。

外注のメリット: 各部品メーカーに関連する専門技術。
例:UVカットガラス。提案はトヨタがするが、製造のノウハウはガラスメーカーにある。
トヨタ自動車 堤工場 1994年11月10日