松村元課長の功績についてそろそろ言っておくか


薬害エイズで刑事責任が確定した厚生労働省の松村元血液製剤課課長。マスコミからも裁判所からも、そして世論からも総バッシングを受けており、悪人扱いされている。


その松村元課長、実は薬害エイズ問題について多大な功績を残しているのだが、誰もその功績については触れない。あまりにも気の毒だが、どうせ誰もこんな事を気にしないと思うので、私が述べることにする。地裁判決文から引用。

被告人の生物製剤課長着任当時、既に製薬会社による臨床試験が進行中であった。生物製剤課では、昭和60年1月ころ、担当課長補佐がその進行状況を聴取し、進行の早い会社において、同年4月初めに承認申請を予定していることなどの情報を得ていた。

 昭和60年3月下旬、前記4.3の帝京大学病院におけるエイズ患者の発生等の新聞報道により、血友病患者のエイズ問題に大きな社会的関心が寄せられたことから、生物製剤課では、それからまもなく、製薬会社による加熱第VIII因子製剤の承認申請を急がせるとともに、承認審査を他の薬剤より優先させ、国立予防衛生研究所における検定も優先してできるだけ早く加熱第VIII因子製剤の供給を開始するという方針を打ち出した。その結果、同年7月1日には製薬会社5社の加熱第VIII因子製剤が製造承認又は輸入承認され、これらは同年8月中旬ころ以降、順次供給が開始された。

 他方、第IX因子製剤については、生物製剤課では、昭和60年前半ころまで加熱製剤の承認申請に関する具体的方針を示していなかったが、同年7月18日に至り、同製剤の承認申請手続に関する説明会を開催し、症例数は特に明示せず、頻回投与のデータは不要とするなどの加熱第VIII因子製剤に比べて著しく簡易な臨床試験で足りる方針を示した。その結果、各製薬会社は少数症例の単回投与試験のみのデータを添付して承認申請し、カッター・ジャパン株式会社(以下「カッター」という。)は昭和60年12月9日に、株式会社ミドリ十字(以下「ミドリ十字」という。)は同月17日に輸入承認を受けた。
http://www.jca.apc.org/toudai-shokuren/matumura-tisai/05.html

生物製剤課が輸入加熱製剤の早期承認を行ったことが書いてある。そして松村元課長は言うまでもなく当時の血液製剤課課長。松村元課長が早期承認の方針を決定したのは間違いないし、松村元課長の尽力により、加熱血液製剤が早期輸入された事になる。


また、地裁判決文では以下のように述べている。

被告人としても、非加熱製剤の使用に伴うHIV感染の問題について、無策であったわけではない。被告人が加熱製剤の早期承認に向けて積極的な対応をしていたことは事実であり、加熱第IX因子製剤が昭和60年12月に承認の運びとなったのは、その成果であったと考えられる。そして、被告人が、HIV感染の問題を含め、血液行政全般の懸案を解決するために、血液の国内自給に向けて具体的な施策を推進していたことも認められる。被告人の行動は、国の血液行政を担当する者として、大局においては適切であり、行政として重要な国家レベルの施策の方向性という点では、その職責を果たしていたものということができる。

 このように、第IX因子製剤が非加熱のものから加熱のものへと切り替わるという大きな流れ自体については、問題がなかったと考えられるが、切替えの過渡期においては、一定のきめ細かい配慮に欠ければ、本来使用されずに終わるべき非加熱製剤が不用意に使用されてしまうおそれが存在することは、みやすいところであった。判示に係る被告人の過失行為は、こうした過渡期の経過措置ともいうべき側面で生じた落ち度であるが、この種の経過措置は、多くの国民の生命身体に直接関わりをもつものであり、1名たりとも更なる感染者は出さないという観点から、国レベルの行政においても、軽視されてはならないものであった。
http://www.jca.apc.org/toudai-shokuren/matumura-tisai/06-2.html

大局においては適切であり、行政として重要な国家レベルの施策の方向性という点では、その職責を果たしていたものということができると地裁の裁判長が述べている事を重く見なければならない。松村元課長は無能でも悪人でもなく、むしろ行政官としては有能であったのだ。マクロの視点では適切な措置を取っていたのだが、ミクロの視点で落ち度があったと述べている。そして、ミクロの落ち度が重大な過失を伴っていたがために、罪に問われたのだ。有罪に問われたことだけをもって、松村元課長を評価してはいけない。刑事裁判は罪を裁くところであり、功績を賞賛するところではないのだ。


確かに松村元課長は非加熱血液製剤の回収を行わず、不作為により結果的に患者を殺した事があったかも知れない。しかし、加熱血液製剤の早期輸入によって、何人、何十人、何百人の命を救ったと言えるかも知れない。不作為は批判されて然るべきだが、松村元課長の作為によって救われた命があることもまた確かなのである。不作為を罵倒するのであれば、同時に作為を賞賛するべきではないだろうか。