阪南市立病院に関する覚書

全国的にニュースになっている阪南市立病院の件、MSN産経に興味深いニュースが乗っていた。あまりにも進んだことをしすぎると、市立の意識が付いていかないという事なのかも。


http://sankei.jp.msn.com/politics/local/081124/lcl0811242132004-n1.htmより引用。

さらに岩室敏和前市長は6月、歩合給を導入して医師の平均年収を約1200万円から約2000万円に見直し。大学以外のさまざまなルートを使った医師招聘(しょうへい)や、新しく来た医師の紹介などで、医師を増員していった。10月決算見込みでは、医業収益が1億円を超えることが報告され、経営は軌道に乗りかけていた。

前市長の方針だが、この方向自体は正しい、と思う。医師の平均年収が上がったにも関わらず、医業収益が回復したという事実が、前市長の方針の正しさを裏付けていると考える。病院というのは患者に対して医療を売っていると考えることができる。医師の年収が増えようとも、医師の数が増えれば病院にとっては経営改善に繋がる訳である。だから、医師の年収を増やすことが一概に市の財政に負担を与えるということにはならない。民間で言えば、設備投資に相当するわけであり、適切な設備投資を行えば、リターンは帰ってくるという事である。この場合、医業収益が回復しているわけだから、年収増は適切であったと考える。

ところで、見逃せないのが「大学以外のさまざまなルートを使った医師招聘」のくだりである。つまり、今までの日本の病院は、大学頼みで医師を確保していた傾向がある。大学の医局と太いパイプを築き、医局の医師を大学から病院に派遣していた事で、医師が確保できていたのだが、これは過去の話である。医師不足&医局崩壊により、大学の医局をあてにできる時代は当に終わっており、大学病院に頼らず、病院の魅力で医師を確保しなければならない時代になっており、前市長の方針は全国的にも先進的であると考えられ、時代に合致した方向だと考える。


一方、新市長の方針は前市長とは対照的である。

福山市長は副市長時代、市立病院の和歌山県医大との関係修復などに当たっていたが、今年2月に解職された経緯があり、市長選でも岩室前市長の「大学からの派遣に頼らない医師獲得」を訴えたのに対し、「大学との連携による安定した病院運営」を訴え、当選した。初当選後の報道陣のインタビューで、歩合制の見直しに言及。「地域のためにやってくれるのなら歩合制でもいい」とも述べたが、結果として、給与引き下げ発言が1人歩きした。


前市長と和歌山県立大学の関係が悪化していたということは確かなのだろうが、今の時代、「大学との連携による安定した病院運営」は無理だろう。大学におんぶにだっこで病院を運営しようとしていたのだろうが、大学病院の現状を考えて、そのような余力があるとは思えない。新市長の方針を続けたら、大学病院の支援が徐々に打ち切られ、阪南市立病院は緩慢な死を迎える他はないだろう。

とは言え、前市長と新市長の対立点がはっきりした事は大きい。新市長が市役所職員時代、数十年かけて行っていたことを前市長はものの見事に否定したわけで、これなら両者が対立するのも当然と言えよう。



今回の市長選と阪南市立病院に関しては、市立病院の給料が歩合制かどうかという話を焦点とした報道が目立つけれど、そんな事は瑣末な事に過ぎないと考える。地域医療を熟知し、医療崩壊時代の公立病院のあり方を踏まえ、病院改革に乗り出した前市長。その前市長の方針を良しとせず、従来の医局頼みの病院運営に戻そうとした新市長。実は「21世紀の地域医療のあり方」が問われていた選挙であり、阪南市立は従来の方針を選択したということになる。


個人的には、前市長個人に関しては選挙に敗戦して良かったと思う。前市長の方針を見る限り、地域医療に詳しいと考えられるし、優秀な方なのだと考える。阪南市の市長にしておくのはもったいない。一方、阪南市民は残念な選択をしましたね、という他はない。前市長の方針を数年間続けていれば、地域医療の成功例として取り上げられる様になったと思うのだが、まあ、市民の選択ですから。