9.11 生死を分けた102分

タイトルにあるように、同時テロとツインタワーの崩壊までの軌跡を追ったノンフィクション。生存者や目撃者に対する二百回のインタビュー、無線交信、電話、電子メール、証言などの数千ページをまとめたという事だ。そして、この本の価値はその労苦に見合ったものになっている。




本書は、テロリストによるツインタワーの攻撃に対し、違ったものの見方を読者に与えてくれる。まえがきには「ハイジャック犯が犠牲者全員の命を直接奪ったと言うのでは、彼らの攻撃能力を過大に評価したものとなってしまう」とあり、何がツインタワーの犠牲者を増やす結果になったのかを、読者に伝えてくれる。

それは非常階段の不備であり、建物の耐火性であり、警察と消防の連携の欠如であり、消防無線の不備である事が、本書を読めば分かる。

非常階段の不備とは何かというと、WTCの二つのタワーの規模に要求される非常階段の数が、法改正により6から3に減らされていたこと。法律により、百十階の高層ビルに、六階建てのビルと同数の非常階段しかなかったこと。非常階段同士の距離が離されなかったこと。なお、本書に因れば、テロの攻撃を受けた階層より、上の階から非常階段を降りて生存した方々もごく少数ながらいるらしい。

耐火性に関しては、誰しも驚くことだろうが、WTCの建材の防火性が誰の手によっても試験されていなかったと言う事が紹介されていた。WTCの設計事務所は1966年に「試験を行うことなしに床材の耐火性を決定することはできない」と言う声明を出している。また、1969年に「鉄骨は、建物のどの場所かでちがいはあっても、三時間から四時間は火災の火に持ちこたえなければならない」と言う条項を、ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社の担当者が削除していた事に設計技師の一人が気づいたと、本書にある。

警察と消防の連携不足に関しても、厳しく指摘されている。高層ビル火災の際には、警察が所有していたヘリコプターに、消防士が同乗できるという行動計画があったにも関わらず、めったに計画に従った行動は行われず、演習もほとんど無かった。警察のヘリコプターから、消防は情報を取得できず、消防の大隊長はいつまでも事態を把握できなかった。

消防無線は、旧式で、下の階から上の階に電波が届かなかった。新型に変更したのだが、新型機に不調があった事で消防士がいやがり、結局旧型の無線機に変更した。この事が何をもたらしたかというと、サウスタワーが崩壊したことが、ノースタワー内の消防士には伝わらなかったという事を意味する。

このように書くと、誰かを批判しているような印象を受けるかも知れない。確かに、批判的な一面はあるが、本書は「WTCに対するテロのさなか、ツインタワー内の人々が何を考え、どのように行動したか」をメーンにとりあげている。しかし、その辺りは実際に読んでみなければニュアンスが伝わらないので、あえて紹介しなかった。と言うか、できなかった。アメリカ政府には批判的だが、アメリカ人のすばらしさを高らかに歌い上げているような印象を受ける本である。

WTCの崩壊と、同時テロに少しでも興味がある人には、強くお勧めいたします。