JASRACへの立ち入り捜査を陰謀論で考えてみる


先のエントリーで以下のようなことを書いた

この調査によってJASRACが困るかと言えば、少しは困るだろうと言う他はない。しかし、JASRACとしては包括契約を個別契約に切り替えていけば済む話。泣きをみるのは放送局だろう。番組の中で使った局を一曲一曲集計し、JASRACに報告しなければならないわけだから。
http://d.hatena.ne.jp/bn2islander/20080423/1208957007

[テクノロジー : 日経電子版を読んで、あまりのうかつさ、自分の読みの甘さに死にたくなった。JASRACが放送局に対し全曲報告を求めさせる事こそが、まさに敵の戦略だったのだ。確かに、JASRACは全曲報告を求めていたわけだから、JASRACとしては特に不満がないかも知れない。しかし、JASRACの敵たるイーライセンスにとっては、JASRAC包括契約を捨てさせる事が重要であったのだ。


記事をバラバラに切り取り、再構成してみる。

新興事業者だったイーライセンスは、作詞作曲家の立場に立ち、放送事業者に対して使用する楽曲の全曲報告・個別処理を義務付けた。しかしこのことが仇になり、コストを安く抑えたい放送事業者から敬遠されることとなった。不透明な分配をクリアにし、クリエーターに適正な還元が行われる環境を作ろうとしたことが皮肉にも「参入障壁」を作ってしまったのだ。

JASRAC以外の事業者が著作権を管理する楽曲は放送事業者に使われなくなる。放送局によっては「この曲はJASRAC管理じゃないのでかけないように」という通達が出回っているという話も聞く。

放送事業者と包括契約によって結ばれた蜜月関係が強固だったため、一度JASRAC以外の管理事業者に信託した作詞作曲家も、その事業者から楽曲を引き上げてJASRACに戻したり、管理を委託しなくなったりといった事態が生じた。

現状放送局で「JASRAC以外の管理事業者の楽曲」として敬遠されているのは、ほとんどがイーライセンスのものであるともいえる。今回公取委が動いた背景には、イーライセンスからの強い働きかけが公取委に対してあったのだと思われる。

加藤理事長が先日の記者会見で明かしたところによれば公取委は今回は「放送の包括契約だけを問題にしている」ということだ。


以上の事から、私は一つの陰謀論を描くことができる。自分の文章で書く必要もないのだが、敢えて書いてみる。


つまり、イーライセンスは放送の著作権管理事業に参入する時、JASRACにない特長として「著作権の完全管理」をひっさげた。JASRACは放送局との包括契約を行い、ある種のどんぶり勘定で分配しているのに対抗し、イーライセンスは放送局に使用楽曲の全曲報告を求めた。これはアーティスト側から見れば、透明度が非常に高いシステムであるのだが、放送局にとっては非常に負担が掛かるシステムとも言うことができる。


放送局に取ってあまりにも負担が掛かるため、彼らは徐々にイーライセンスの楽曲を使わなくなった。放送局はシェアが圧倒的に高いJASRAC包括契約を結んでいるため、イーライセンスの曲を使用しなくてもそれほど障害はないのだろう。結果として、イーライセンスに支払われる著作権使用料が減り、アーティストに分配される著作権使用料も減っていった。そうなると、アーティストはイーライセンスを選ぶ意味がなくなり、著作権JASRACへと移してしまった。


困ったのはイーライセンスだ。著作権のシェアで圧倒的に負けている上に、全曲報告と言う参入障壁がある以上、イーライセンスには手の打ちようがない。しかし、この窮地のさなか、イーライセンスは閃いたのだ。


「全曲報告が問題ならば、JASRACにも全曲報告を行わせればいいじゃないか」


イーライセンスは持ち前の政治力を働かせ、公正取引委員会を動かした。前述したとおり、公正取引委員会が放送の包括契約を根拠にJASRACに立ち入り調査をした位の事では、JASRACはほとんど痛まない。しかし、放送局との間に結ばれた包括契約を覆すことには十分だ。公正取引委員会の目も気にしなければならないし、世間の目も気にしなければならないJASRACは、包括契約を徐々にフェードアウトさせ、個別契約に移る必要が出てくるだろう。イーライセンスの戦略がちという所ではないか。


以上、陰謀論終わり。一つの記事から、色々な陰謀論が紡ぎだせると言うだけの話なので、鵜呑みにしないように。あくまでも架空の話ですよ、架空の話。大体、イーライセンスが公正取引委員会を動かすほどの政治力を持っているわけがないではないですか。