iPhoneの脱獄行為合法化の件について

iPhoneの脱獄や教育目的ないし批評のために正当な範囲でDVDのCSS〔コピーガード〕を無効化することは、今やDMCA〔デジタル・ミレニアム著作権法〕の下で違法ではなくなった! この新しい方針は先ほどアメリカ著作権庁から発表されたばかりだ。これは大事件だ。くりかえすが大事件だ。
速報! 米著作権庁、合法利用の範囲を大幅拡大―iPhone脱獄など全6項目 | TechCrunch Japan


何が凄いんだろう.


ぶくまのコメントを見る限り,「アメリカは凄い.日本は出遅れている」と言った論調が多勢を占めているのだが,これがよく分からない.今回,米著作権庁が示した適用除外範囲のうち,どれが日本で問題になる行為なんだろう.

1. 教育上の目的ないし批評のために必要な公正な利用とみなされる範囲で複製を行うため、合法的に所有するDVDの暗号化を無効化すること。
2. ユーザーが合法的に所有するソフトウェアを携帯電話上で実行させることができない場合、そのソフトウェアが実行できるように携帯電話の機能を変更するプログラムを実行すること。(つまりiPhoneを脱獄(Jailbreaking)させてGoogle Voiceを走らせるなど)
3. 携帯電話を予め設定されたネットワークとは別のネットワークに接続させることを可能にするようなプログラムを実行すること。(つまりiPhoneを脱獄させてAT&TではなくT-Mobileに接続させるなど)
4. セキュリティーに関する合理的な試験ないし調査のためにビデオゲームの暗号化 (DRM)を無効にすること。
5. ハードウェア・ドングルによって保護されているソフトウェアについて、そのドングルが製造中止になるなど老朽化した場合に、当該のソフトウェアにドングルの機能を無効にするような改変を加えること。
6. 電子書籍に機械による読み上げを妨げる機能が組み込まれている場合に、その機能を無効化して内容を読み上げること。


私の著作権に関する理解で言えば,著作権法の本質は「複製させない権利を権利者が保有する」事にあると思う.そして,条文の中で複製に絡んでいるのは,1番だけだ.しかも,1番の条項は,日本では著作権法の対象にならない行為だ.日本の著作権法に馴染んでいる私にとっては「なぜ,今頃こんな事を明言しなければならないんだろう」という思いが拭えない.*1


DMCAに関しては全く知らないのだが,今回の米著作権庁の発表を見る限り,「DMCAは日本の著作権法より広い範囲を制限している」か「AppleDMCAを無視して,勝手な法解釈を述べている」かのどちらかしかない.


この件を持って,著作権法に対してアメリカは柔軟であり,日本が硬直化しているのは間違っていると思う.アメリカが日本以上に制限をかけたため,日本では問題にならない範囲が問題になった.そこで,米著作権庁が「違法ではなくなった」と言う必要が出てきたという話じゃないのかな.この件でアメリカを賞賛するのは「ホメオパシーの保険適用廃止」を議論しているイギリスを賞賛するようなものだと思うんだよね.


もっとも,米著作権庁が適用を除外した行為が,日本では違法というのであれば,このエントリーの内容は全部間違っている事になりますね.


ホメオパシーというキーワードで来る人もいるみたいですね.手ぶらで帰すのも申し訳ないので,ドイツのホメオパシー事情に関して,概要を記載しているエントリーがあったので紹介します.なかなか興味深い内容だと思います.
ホメオパシー:ドイツでの状況: 粂 和彦のメモログ

*1:DMCAの適用除外範囲を個別に列挙しているというのも疑問である.アメリカはフェアユースなので,裁判で白黒付ければいいじゃないかと思うんだよね.フェアユースを採用しているのに,なぜわざわざ個別に除外を決めたんだろう